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八幡平市の北東部に位置する荒屋新町や西根寺田周辺は、江戸時代、秋田や津軽へ続く街道が通り、交通の要として栄え、さまざまな文化を育んできました。今も、地域住民が古くから続く文化を大切に守り育てています。
浄法寺漆を名産にもつ二戸市の浄法寺町と街道でつながっている荒屋新町周辺は、藩政時代から漆器産業に携わる職人が数多く住んでいました。安比塗漆器工房では、この地に伝わってきた伝統技術を次世代に継承し、現代生活の中で漆器文化がかつてのように取り入れられることを目指し、さまざまな取り組みを行っています。
特に、後進の育成には力を入れており、2年間の研修を実施。研修後には塗師として即戦力になれるように育てています。これまでも、ここで学んだ塗師たちは県内外で漆に係る仕事に就いています。
塗師を目指す人への門戸は広く、実践と理論をバランスよく学べる研修もあるため、職人としてのみらいを望む人にはうれしい環境です。
「横間虫追いまつり」は、横間地区に約200年前から伝わる行事。毎年7月、五穀豊穣と悪病退散虫追いを祈願し、藁人形や旗を持った行列が、鐘や太鼓の音に合わせて練り歩きます。
以前は集落の住民だけが参加する行列でしたが、近年は、集落外の住民や観光客も参加できるようになりました。地域住民と観光客の交流の場としても、話題になっています。
鎌倉時代に起源をもつ「浅沢神楽」は、安代地区を代表する伝統文化の一つ。太古や笛、唄手、舞手など10人ほどで演じられる「浅沢神楽」は、華麗な舞台で躍動感があり、伝統文化の奥深さを楽しむことができます。
平成19年には浅沢神楽伝承館をオープン。ここで年に一度開催される浅沢神楽まつりを通して、子どもから大人まで幅広い世代が神楽を身近な存在として楽しんでいます。
西根寺田の聖福寺周辺で開かれる白坂観音大祭は、市指定有形文化財の七面観音が年に一度だけご開帳する貴重な祭り。勇壮な山車の練り歩き、野口鹿踊りの奉納などがあるほか、子どもも大人も楽しめる多彩なイベントが開催され、街全体が盛り上がります。
伝統行事を通して地域住民の交流が深まり、温かいコミュニティがつくられていることを実感できます。
荒屋新町はかつて鹿角街道の馬継所として商業が発展した歴史があり、現在も商店街にはオープンな雰囲気が漂っています。
荒屋新町商店街では、味噌づくりや漆の絵付け、ミニ畳つくりなど、多彩なものづくり体験に参加できる「ぶらっと一日体験工房」を開催。誰もがものづくりの楽しさに気軽に触れることができます。
桜の名所として人気の桜松神社、テレビCMのロケ地にもなった「不動の滝」や「縁結びの木」があります。山の麓にある新安比温泉は、海水の2倍の塩分濃度という強塩泉にごり湯が自慢。疲労回復や美肌を求めて、地元住民も銭湯感覚で訪れている人気のスポットです。
このエリアの東側にそびえているのは、七時雨山と田代山。ここに広がる田代平高原は、山荘が一軒あるのみ。かつては牧草地で牛馬が放牧されており、牧歌的な風景を望むことができます。
美しい山や森に抱かれたこの地域では、山の幸を楽しむのも自然なこと。無農薬・自然志向の方法で栽培している安比まいたけや、地元の井戸水で作る味噌や豆腐、冷涼な気候でおいしく育ったそばなど、この土地ならではのおいしさが目白押しです。
郷土料理のけんちん汁は、根菜や山菜をふんだんに使った滋味深い味わいで、正月には多くの家庭で食べられています。産直では、まいたけや野菜のほか、天然しめじや日本一の生産量を誇る「安代りんどう」など、種類豊富に農産物が並んでいます。
山で暮らし、文化と暮らす中で、ここにしかないものに触れて、楽しみ、そして次の世代へとつなげていく。そんなじんわりと心が満たされる豊かさに満ちた地域です。
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横間虫追い祭りは、「五穀豊穣、稲虫払え、豊作祭りや」の掛け声も威勢よく、にぎやかな祭り
希少な岩手県産漆を使い、高度な技術で作り上げる安比塗
新日本百名山にも選ばれている七時雨山。標高1063メートルで、トレッキングスポットとしても人気
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