広報はちまんたい3月号別冊 暮らしとともに生きる信頼の漆器 安比塗をもっと身近に  八幡平市の代表的な工芸品のひとつ「安比塗」。流行に左右されないシンプルな形と、日常使いできる丈夫さ、修理できる安心感を兼ね備えた信頼の漆器を、皆さんの暮らしの中に取り入れてみませんか。 P01 漆器産地「安比川流域」の歴史  八幡平黒谷地湿原を源流とし、馬淵川に注ぐ安比川。かつてこの流域では、豊富な森林資源を生かした漆器生産が盛んに行われていました。その起源は古く、天台寺開創の際、僧侶が寺の食器として製作したものが広まったと伝わっています。冷涼で稲作に適さないこの一帯で、漆器作りは重要ななりわいであり、藩へ年貢の代わりに納められるほどでした。  安比川上流の細野地区で原木を切り出し、川を少し下った畑地区を中心に木地を生産。浄法寺で採れた漆を使い、浅沢地区を中心に塗りが行われていました。地元の市日では、漆器の取引も盛んで、鹿角街道を通じて各地へ広まっていきました。  明治期以降は荒沢漆器と呼ばれ、隆盛は昭和初期まで続きましたが、時代の変遷とともに瀬戸物やプラスチックが市場を席巻し、この地域の漆器生産は衰退していきました。  しかし、荒沢の漆器文化を後世へ伝えるため、昭和58年に安代町漆器センター(現・八幡平市安代漆工技術研究センター)を設立。伝統に新しい息吹を吹き込んだ「安比塗」として、現代の暮らしの中によみがえらせたのです。 P02-03 職人の手による、新しい伝統づくり  安比川流域の漆器生産の伝統を今に伝える安比塗。上質な漆器を生み出すため、試行錯誤を繰り返して生まれました。 「永遠の定番」を目指して  安比塗の製作には、岩手県工業試験場(現・県工業技術センター)が深く関わり、漆本来の特性を生かした技法を確立しました。  木地は、ミズメザクラやトチなど、すべて天然木を使用し、木を縦に使って木取りしています。縦木取りは、大きく太い木が必要で、加工が難しいものの、丈夫で割れにくく、ゆがみの少ない器を作ることができます。  お椀などの原型は、地域に残された古い椀などを計測して平均化し、いい部分をかけ合わせて作りました。シンプルで、軽くて使いやすく、現代の暮らしにもすんなり溶け込み、長く使うことで経年変化の深みが増します。伝統と洗練を掛け合わせ、食卓の「永遠の定番」を目指しています。 研究から生まれた最適な工程  浅沢地区の塗りの伝統を今に伝える安比塗。一番のこだわりは何といっても、漆にあります。  漆本来の特性を生かすため、地域に伝わる技術を数値化して客観的に分析し、最適な漆の精製技術、塗りの回数などを編み出しました。漆の精製の仕方により、光沢や粘度が変わり、仕上がりに影響が出るため、漆は全て自社精製。貴重な岩手県産漆を使用し、鮮やかな発色と丈夫さを生かしています。  塗りの手法の大きな特長は、下地から上塗りまで、良質な漆を塗り重ねる「漆下地」。漆は時間がたつにつれ硬くなる性質があるので、木地に漆をたっぷりと染み込ませ、漆を何度も塗り重ねることで、丈夫な器を仕立てます。  上質な漆器を生み出すために、度重なる分析と実践を経て誕生した安比塗。信頼の技術は、将来にわたり安心してお使いいただける漆器の証しです。およそ52工程、すべて職人の手仕事で仕上げます。 時間をかけて、艶を育てる器  熟練の技術が求められる上塗りは、限られた職人が専用の部屋で行います。「塗り立て」と呼ばれる仕上げの手法により、漆そのものの質感が際立つ、安比塗独特の奥ゆかしい輝きが生まれます。毎日使い込むことで表面が磨かれ、漆がさらに硬くなって、やがて美しい艶のある器へと育つのです。  長年使い込まれて漆器の艶が増すことを、「艶があがる」といいます。毎日の暮らしの中で、ゆっくりと輝きが育つ安比塗。日々の思い出とともに艶をまとい、使う人にとっての「特別な器」となります。 「艶があがる」とは?  新品の安比塗には表面に非常に細かな凹凸があり、真珠のような柔らかな質感があります。毎日使い続けていくことで、鏡のような光沢が生まれてきます。溜塗りの漆器の場合、上塗りが徐々に薄くなり、茶色みを帯びてくる点も魅力です。 全国各地で展示会を開催  安比塗漆器工房では、趣向を凝らした展示会を行い、着実にファンを広げています。  昨年12月4日から16日まで、東京都新宿区の伝統工芸品ギャラリー「monova(モノバ)」で、「安比塗のうつわ展」を開催。漆を精製する時に使う「こし紙」を活用したワークショップを併催し、安比塗の魅力を体感していただきました。  ことし1月には、同中央区銀座にある岩手のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」で、「わしの尾」の酒とともに楽しむ「ぬぐだまるいわて酒とうつわの手仕事展」に出展。全国各地の有名デパートの催事などにも出展し、高い評価を得ています。 職人技を支えるセンター  安比川流域の漆器文化を継承するため、昭和58年に開設した安代漆工技術研究センター。2年間で、漆器に関する実践的な指導を行い、漆器職人を育成しています。漆芸家を目指す若手のための貴重な研修機関であり、理論的な指導法とその教育水準が高く評価され、漆産業全体に大きく貢献しています。開設以来、60人の卒業生が、漆器職人として県内外で活躍しています。  安比塗漆器工房の塗師の多くは、このセンターの卒業生。センターの指導者と連携しながら、日々技術の研さんに励み、アフターサービスの対応や特注品の製作など、幅広いニーズに対応しています。 P04 安比塗の器を 日々の暮らしに  暮らしの中にひとつずつ、安比塗の器を取り入れてみませんか? はじめての安比塗、まずは汁椀から  軽くて丈夫な安比塗は、普段使いにぴったりの器。安比塗の器を暮らしに取り入れるなら、まずは汁椀を使ってみませんか。  安比塗の器の色は、朱と溜の2種類。汁椀には定番の形がいくつかあるので、家族で好みの形を選ぶことができます。  「漆器は何となく敷居が高く、扱いが難しそう」と思っていませんか? いえいえ、簡単なお手入れのコツさえ分かれば、一生使える大切な器となります。結婚祝いなど贈答品にもお勧め。地元の工芸品を、見て、触れて、愛用してみませんか。 毎日のお手入れのコツ 洗う  食器用洗剤を柔らかいスポンジにつけて普通に洗ってOKです。たわしや硬いスポンジは避けてください。 拭く  洗ったあとは、柔らかい布で水滴を拭き取ります。毎日のひと手間が、艶のある器を育てるコツです。 安比塗のお椀いろいろ ■汁椀4寸  使いやすさが人気の定番商品。少し小さめで、女性やお子さまも使いやすい3.8寸の汁椀もあります。 •材質/ミズメザクラ •サイズ/径120ミリ×高さ71ミリ •価格/7,020円 ■4寸羽反椀  口が反り返っているため、汁物も飲みやすい形状。収納性に優れ、場所を取りません。 •材質/トチ •サイズ/径120ミリ×高さ63ミリ •価格/7,020円 ■高台椀  高台が高く、持ちやすい形。風格ある佇まいで、首都圏の販売会でも人気の高い器です。 •材質/トチ •サイズ/径120ミリ×高さ80ミリ •価格/7,776円 安比塗を、見て、触れて、体験しよう!  市役所新庁舎隣の「結のひろば」に、安比塗の展示コーナーを設置しました。汁椀や片口など、安比塗の定番商品を見ることができます。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。  安比塗漆器工房では、安比塗をはじめ、県内外の漆芸作家の作品を展示しているほか、「漆の絵付け体験」ができます(要予約)。また、ご自宅にある古い漆器の修理なども承っています。  詳しくは、工房へ問い合わせください。 ■問い合わせ先/安比塗漆器工房 郵便番号028‐7533 岩手県八幡平市叺田230‐1 電話番号/0195-63-1065 ファクス番号/0195-63-1066 営業時間/午前10時から午後6時まで 定休日/月曜日