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連載コラム(1) きっと、大丈夫

 きっと、大丈夫

 桜の花を愛でる季節をとうに過ぎた夏のある日。七時雨山のなだらかな稜線の麓に広がる田代平高原にひっそりとたたずむ、一本のオオヤマザクラと出会った。

オオヤマザクラの調査状況を見守る地域の人たち 

調査状況を見守る地域の人たち

オオヤマザクラの状態を説明する小岩さん

幹の状態を説明する小岩さん

 春、満開の田代平のオオヤマザクラ

春、満開のオオヤマザクラ

 放牧中の牛が逃げぬよう設置されている柵をさっと通り抜け、生い茂った雑草を長靴でかきわけながら進むこと20分余。汗を拭った先に現れた幹周り5メートル45、樹高17メートル50の大木の周りには、地元の男性10人ほどが集まり、なにやら話をしていた。

 全方位にロープが張り巡らされ、「入らないでください」との注意書き。聞くと、今年に入り、枝枯れなどの弱った兆候が見られるようになり、相談を受けた県林業技術センターの専門家らがこの日、調査に訪れていた。

 さっそく同センターの小岩俊行さん(50)が、木によじ登り“診断”を始めた。頭上から塊がぽろぽろと落ちてきた。「これは、サルノコシカケです」。腐朽菌が侵入し、幹の腐食を進めているという。実際、測定器で測ってみたが、空洞を示す波形がところどころにみられた。

 「肥料をまけば、また元気になるのでしょうか」。不安そうな表情で、地元の人たちは小岩さんに駆け寄って、問いかけた。「腐りを止める薬はない。木にがんばってもらうしかない」

 なんともいえない、歯痒いやりとりだった。遠くから眺めていた私は、当事者でないのは分かりながらも、「じゃあ、どうすればいいんですか」と小岩さんに詰め寄らずにはいられなくなった。

 小岩さんは、ゆっくりと話し始めた。「これから成長していく部分を元気に増やしていくことができれば、『全体として』オオヤマザクラを守っていくことは可能です」

 このオオヤマザクラは、計7本の枝分かれした幹が、主幹から複雑にねじり合うことで、一本の大木に形作られている。ある部分が腐ると、それを補うようにして、細胞分裂がなされ、新しい部分が増えていくというメカニズムが、木の内部ではおこなわれているという。

 弱ってしまった部分があるからこそ、若い幹が新たに生えてくる。何百年という歳月をかけて、私たちが知らない間、この大木のなかで“世代交代”がずっと繰り返されていたなんて――。

 そんな私と小岩さんとのやりとりを、誰かが聞いていたようだ。「これで切らないですむな」。ぼそっと、独り言のように漏らす声が聞こえた。その瞬間、現場に包まれていた重苦しい空気が、安堵に変わるのを感じた。

 あの場で「切る」か「切らない」かの二択の回答を誰かが迫ったところで、こんな空気にはならなかっただろう。私は、性急な結論を求めていたことに気付き、はっとした。

 帰り道、私はこの桜は、きっと、大丈夫だと思った。なぜなら、気長に見守ろうと思う、人々の思いがそこにあるからだ。

 人口減が進む地方の現状を打開しようと、国が導入した「地域おこし協力隊」として、この地で暮らし始めて半年が過ぎようとしている。地域おこしは、ともすれば、一過性のパフォーマンスのほうが、人目は引くのかもしれない。

 でも私は、この桜とともに暮らしてきた人たちのような、息長く見守るまなざしを大切にしたい。(今川友美)

 

 

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