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連載コラム(9) 旅と日常の間

旅と日常の間

 「冬は寒いよー」

 そう怪談話のごとく、雪国の冬の厳しさを、会う人会う人に教えてもらったのが、ここに来てまもない昨春のことだった

七滝の前でポーズをとる参加者ら(県民の森提供)
七滝の前でポーズをとる参加者ら(県民の森提供)

クマの爪痕について説明するボランティア
クマの爪痕について説明するボランティア

 

 あれから、約8ヶ月がたち、その“お化け”なるものは、音を立てずにやってきた。だが、いざ来てしまったら、立ち向かわないわけにもいかない。

 結果、初めはやせ我慢して言っていた「今日は最高気温がマイナスじゃないから暖かいですね」といった挨拶がわりの会話も、最近では少し板についてきたような気がする。

 と同時に、ある変化が、自分のなかで起きていることに、私は気付き始めていた。新鮮な目でものごとを見る「旅」のような期間は過ぎ、「日常」へと視点の比重がシフトし始めていることに。

 旅と言うにはだいぶ長くて、かといって日常と言い切るのには、まだまだ短い。

 旅では喜べたり驚いたりできたことも、日々接するとなると、不便だったり、もうたくさん、と思い始めるものだ。

 岩手山麓に注ぐ「七滝氷瀑ツアー」に参加を申し込んだのは、ちょうどそんな頃だった。

 2月初旬の週末、参加者10数人とともに、ウサギやリス、タヌキといった動物の足跡を観察しながら、スノーシューでゆっくりと歩くこと1時間半。

 突如、現れた断崖絶壁に、精巧に入り組んだ氷柱群が、そそり立っていた。この時期には珍しい、澄んだ青空を反映してか、よく見ると、コバルトブルーを帯び、透き通っている。天気や気温によって、氷柱の色は、日々、変化するという。

 隣の若い女性2人が「超絶きれい」と声をあげた。「超絶」と「きれい」という組み合わせは、日本語的にぎょっとするものがあった。

 ところが、その強烈な違和感はあろうことか、私にあることを思い起こさせた。すごいなあとか、きれいだなあとか思うものに、理屈なんてあっただろうかと。

 お化けがお化けに見えていた子供時代を、私たちはいつかどこかに置き忘れてしまったように、「日常」を過ごすうち、超絶きれいななにかについて、夕暮れになっても話し続けた「友達」と会わなくなって久しい。

 帰り道、そんな幼馴染と、行きで見つけたウサギの無数の足跡を、もう一度、見てみることにした。幼馴染は、林のなかを野うさぎが縦横無尽に駆け巡っているさまに、「まるで野うさぎロードだね」と言った。かなり深くまで沈み込んだ珍しいニホンカモシカの足跡も、細く長い足の形や体の重み、のっそりと歩むさまを、生々しいまでに物語っていた。

 あと5分くらいですよ。一本道を、列になって歩いていた参加者らはばらけ、ひらけた斜面を、雪しぶきをあげながら、一気に下っていく。

 名残惜しくなり立ち止まると、右手には険しい岩稜の細部まで鮮明な裏岩手山、左手には、真白な茶臼岳をはじめとする八幡平のなだらかな山容。

 何度も通って、当たり前のように思えてしまった光景も、こうしてまた見てみると、改めて自然の景色は、とどまることなく、刻一刻と変化しているものだったと、気づかされる。

 だから私も、旅と日常の間を、本当は行ったり来たりしているのだと、今なら思える。気づいていないだけで。(今川友美)

 

   

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