トップページ  >  組織から探す  >  産業建設部  >  商工観光課  >  連載コラム(7) 居場所

連載コラム(7) 居場所

居場所

 市民有志の劇団「ふるさと発信株式会社」の定期公演が11月30日、無事、幕を閉じた。安代小学校体育館に集まった 135人の観客からの盛大なカーテンコールを浴びた出演者8人が、劇団のテーマソングを笑顔で歌った。

「水平線の歩き方」。本番のひとコマ

「水平線の歩き方」。本番中のひとコマ

メンバーを見守り続けた村上さん(11月13日、稽古場で)

メンバーを見守り続けた村上さん(11月13日、稽古場で)

 公演を終え、舞台上に集まった出演者、裏方スタッフ

公演を終え、舞台上に集まった出演者、裏方スタッフ

 私もその一人だった。一緒に並んでいるのは、8月から数ヶ月間にわたり、連日稽古に通い、濃密ともいえる時間を過ごしてきた仲間たちだ。こんな瞬間を迎えられるなんてーー。一時はどうなることやらと、危ぶまれたこともあった。思い出し、さらに、胸が熱くなった。

 直前になっても、稽古に足を運んでこられない仲間がいた。あと数回という段になってやってきたものの、演技中に感情が不安定になってしまったり、体調を崩してしまったりして、そのたび練習は中断され、通し稽古はさっぱりすすまない。


 時間になっても、思うようにメンバーが集まらない。台本を持ったり、忘れた台詞を周りに尋ねていたりするような段階ではもうないのに、危機感も出てこない。

 本来は、肝心の演技に磨きをかけ、稽古らしい稽古をし、本番という目標に向けて座組がまとまり、追い込みをかけていく時期だ。そんなことは、誰もが分かっていた。

 ただ、それぞれの思いは募る一方で、遅々として進まぬ現状に、誰もが口には出さないけれど、苛立ちも疲労もピークに達しているように思えた。いさかいがおきて、雰囲気も険悪になることも、たびたびあった。

 夜になり、片付け作業を終えた出演者や裏方スタッフらが、近くの小料理店に集まった。ひしめき合い座る、こぢんまりとした店内に、「乾杯」とグラスを重ねる音が響く。公演を終えてみての感想を、一人ずつ述べていく。

 最後、舞台監督を担当した村上直樹さん(52)に、順番が回った。村上さんは、1999年の旗揚げから今春まで、15年間代表を務めた。「家族の愛」という一貫したテーマを問い続け、毎年公演を行ってきたこの劇団を、中心となって支えてきた一人だ。メンバー一人一人のことを常に気にかけ、練習を遠くから見守ってくれていた。

 「私がずっと感じてきたのは、ここは、誰かの存在を否定するとかそういう場所ではなくて」。そう言いかけて、村上さんの声が震え、詰まった。「だから、『ふるかぶ』(通称)がここにあるんです。これからも、みなさんにそう思っていただけることを信じています」

 村上さんの言葉から、この地になぜ、この劇団があり続けてきたのかということの一端を、垣間みたような気がした。一度、信頼を託した人を、何があっても、最後まで信じ抜く。新しく加わる形になった私は、メンバーたちの言わず触れずということが、どこまでが優しさで無関心なのかや、踏み込んでいい匙加減が分からず、戸惑ったのも確かだ。

 けれども、誰もがここが居場所だと、最後まで感じられたからこそ、ばらばら寸前のところで踏みとどまれた。

 家族的なものとは無縁で育った私は、幼いころから、周りの空気を即座に察知し、波風を立てずに生きる術みたいなものが、いつしか身に付いた。波立たせたことにより、その後、必ず味わう苦痛に耐え続けなければいけないくらいなら、いっそ風景となり、存在を消し去り、気体にでもなってしまうことでその場をやり過ごす。その方が、楽でいられる。

 そんな私が、縁あって地域の劇団に仲間入りした。その劇団が、もっとも自分と離れた関係にあるはずの「家族」や「愛」を長年テーマにしているという。そして、稽古という、本番に向けて運命共同体的な、いわば家族みたいな意味合いの強い場所に、私は放り込まれた。

 仲間たちが最後、こんな言葉をかけてくれた。「危機を救ってくれたのは、あなたのおかげ。ありがとう」「メンバーが刺激を受けて、例年とは明らかに取り組む姿勢が変わった」

 丸ごとぶつかってきたボールを、相手にパスするということ。それはとても勇気がいる。

 仲間が本気でパスしてくれているのに、自分を守るために気づかないふりをして押し通すことは、もうここではできないだろう。

 本当は、誰かと素直に喜びや悲しみを分かち合える、家族みたいな存在を、どんなものよりも、私は、ずっとずっと、求めていた。誰かに本気でパスできる日が、私にも来るのだろうか。(今川友美)

   

ご意見・ご感想をお寄せください
郵便番号028-7397 岩手県八幡平市野駄第21地割170番地
商工観光課観光振興係
電子メール shokanka@city.hachimantai.lg.jp

【広告】