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連載コラム(2) 稲刈り通じ見えた日常

 稲刈り通じ見えた日常

 いつもの散歩道で私は、某然と立ちつくしていた。見慣れたはずの田んぼの景色が、黄金色のじゅうたんへと姿を変え、初秋の風に揺られていた。

作業の手を休めて話す工藤さん 

作業の手を休めて話す工藤さん

できたての新米を見せる佐々木さん

できたての新米を見せる佐々木さん

 整然と稲束が立ち並ぶ「棒掛け」

整然と稲束が立ち並ぶ「棒掛け」

 

バインダーでの稲刈りを体験する筆者

バインダーでの稲刈りを体験する筆者

 稲刈りの瞬間に立ち会いたい。そう思い立つのに、時間はかからなかった。

 さわやかな秋晴れとなった9月下旬。初めに訪れた西根地区北村集落では、工藤静江さん(80)が、カマで稲を刈って束にし、等間隔に並べていた。午前10時過ぎの、朝露が消えるこの時間帯以降が、収穫作業には適しているのだという。

 「これ、なんだか分かる」。手を休め、足元を指差した。「雀がちゅんちゅん来て、食べ散らかしたあと。雀も生きていかなければならないし、しょうがないのよね」。よく見ると、小さな白い粒がたくさん散らばっていた。

 工藤さんは続けた。「雀も上手なんだな、いい塩梅に知恵をはたらかせて」。雀は、工藤さんが収穫するタイミングを察知し、慌てて食べにきたのかもしれない。

 翌日、威勢のいいコンバインのエンジン音と、それを談笑しながら見守る、お母さんたちの輪が目に入り、車を止めた。聞くと、コンバインのある家が限られているので、共同で作業しているという。

 「この前ね、盛岡へコンバインの展示会に行ったんだけど、一台1500万だった。高級車が一台買えちゃうわよね」。笑いが絶えぬその先で、刈り取った稲束を、幾重にも棒で交互に積み重ねている、男性の姿が映った。

 駆け寄って「何をしてるんですか」と尋ねると、同地区寺田の遠藤金悦(75)さんは「棒掛けだよ」と教えてくれた。ここで2週間ほど天日干しさせるのだという。棒掛けの光景は、妖怪絵本から片足立ちの化け物がたくさん飛び出し、整列し、こちらをじいっと見つめているかのようだ。

 一度に6列を刈り取れるコンバインで一気に収穫し、乾燥機にかけるほうが圧倒的に効率はいいが、「自分たちで食べる分だけは、大変な作業でも、体が動ける限り続けていきたい」と遠藤さん。昨年、腰を痛めて手術をして以来、健康あってこそ、続けられてきたことに気づいたという。

 同地区両沼集落では、佐々木安身さん(86)一家が、この日のために会社を休んだというお孫さんも含め、3世代6人総出で汗を流していた。

 活気あふれる様子に、こちらも力が入ってしまい、ついつい「今年のできはどうですか」などという、新聞記者時代に染みついてしまった、いわずもがなな質問をしてしまう。佐々木さんは「今年は去年と比べてああだった、こうだったなんて比べてもきりがない」とさらりとかわした。

 これまで、減反をはじめとする国の政策に翻弄され、後継者不足といった問題を抱える「負の面」や「大変そう」といったフィルターを通してでしか、農業を見ていなかったのかもしれないと、ふと思った。

 いま、私が見ているのは、フィルター越しの世界ではない、同じ町に暮らす人たちの姿だ。

 昼になり、自宅で休憩をとる佐々木さん一家と、食事をご一緒させていただいた。久しぶりに集まった家族のややぎこちない会話が、まぶしかった。

 東北農政局によると、八幡平市を含む北上川上流地域の今年の作況指数は、前半、天候に恵まれた影響で、前年よりも3ポイント高い105の「やや良」。ともあれ、今年の新米は、私にとって特別な味になるにちがいない。(今川友美)

  

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