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連載コラム(19) 雲上の湯の冬支度

雲上の湯の冬支度


第一源泉について説明する主人の阿部さん
第一源泉について説明する主人の阿部さん熱さに耐えながら源泉の泥かき作業をするスタッフら
熱さに耐えながら源泉の泥かき作業をするスタッフら

安保さん
藤七の「おじいちゃん」こと安保さん

半年間雪に閉ざされる藤七温泉
半年間雪に閉ざされる藤七温泉

 八幡平山頂へと通じる「アスピーテライン」と「樹海ライン」は今年も4日で冬季通行止め期間に入る。春は雪の回廊、夏は高山植物の宝庫、秋は紅葉と、訪れる人たちを楽しませてくれたワインディングロードは、半年間、雪の世界へと閉ざされる。

 それにともない山頂近くの標高1400メートルの東北一高い場所に位置し、「雲上の湯」として秘湯ファンを長年惹きつけてやまない藤七温泉彩雲荘は10月25日、今季の営業を終えた。

 それからわずか数日間のゲート閉鎖までに、10数人のスタッフらが総出となって"冬支度"を急ぎ足でおこなうのが、例年のならわしだ。

 10月27日昼過ぎ、訪ねてみると、男性5人が上下雨具に長靴、ゴム手袋という厳重な装備に、シャベル、バケツを持って、ちょうど出かけようとするところだった。聞くと、「第一源泉」と呼ばれる場所に向かうのだという。

 強い硫黄臭と、地中からもうもうと立ち上がる噴気をかきわけ、地獄の奥へ奥へと進んでいく。道すがら、何度も「大丈夫?」と声をかけられたのだが、すさまじい勢いで噴射する90度にもなる源泉の湯しぶきが、ときに視界を真っ白にしながら、スコールのように降りかかってきたとき、そのワケを理解した。

 女性でここまで入ったのはあなたが初めてですなどと言いながら、主人の阿部孝夫さん(59)によると、少なくとも東北地方で地表から直接これほどの規模で源泉が噴出している場所は例をみないという。

 私は頭の先からお気に入りのスカートまで(こういう時に限って、あーあ)湯の花で真っ白、びしょ濡れになってしまったわけだけど、八幡平が活火山として今も生きているということ、そして自分が、ここに立っているということが、きっといま一番たしかなことなんじゃないかなと思った。

 「来年も、いいお湯がたくさん出てきてほしいから」と男性たちは、熱っ、熱っと険しい表情をしながら、底にたまった重い大量の泥や湯の花、石をシャベルで懸命に何度もかきだしていた。

 作業をしていた一人、安保清八さん(81)は、シーズン終了を迎えるのはこれで20回以上になるベテランだ。かつて大工をしていたことから、壊れた宿の修繕はおてのもので、温泉作りも手がけたこともある。常連からも「おじいちゃん」の愛称で慕われ続けてきた。作業が終われば毎年、秋田の自宅に戻り、冬をのんびり過ごすという。

 安保さん含めて、スタッフの半数以上がいわゆる季節雇用とよばれる人たちだ。女将の阿部かよ子さん(50)は、あっという間だったなあと振り返りながら、「なによりも、半年間一緒に働いた仲間たちと、また離れ離れになってしまうのがとてもさみしい」と片付いて閑散とした館内を見やりながら、ため息をこぼした。

 部屋や調理場の掃除、雪囲いなどやることはまだまだたくさんある。だが、「来年もまた来ますね、といって帰っていかれたお客さんのまた喜ぶ顔をみるのが、私たちにとって一番うれしいことです」とかよ子さん。

 私が藤七温泉に初めて訪れたのは、新聞記者として仙台に赴任していた6年前の夏の終わりだった。すっかり真っ暗になってしまった峠道に不安になりながら、やっと山小屋風の灯りを見つけたときにはほっとした。夜中は、源泉がぽこぽこと湧き出る名物の混浴野天風呂をはしごし満天の星を見上げ、早朝は、何も遮るものがない荒野から昇る朝日をただ眺めた。

 また来年も来ますね。私もそう言って去った旅人の一人だった。けれども「また来年も」という言葉は、藤七温泉にたずさわる一人一人にとっても、旅人と同じくらい、いやそれ以上に重みを持って響いているんじゃないかと思うのだ。それぞれの場所に下り、また無事に再会できる日を心待ちにしながら、それぞれの冬を過ごす。人を寄せ付けない時期があるからこそ育まれるなにかが、そこにはきっと眠っている。(今川友美)

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