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連載コラム(18) 下を向いて歩こう

下を向いて歩こう

 10月中旬、初めてきのこ狩りを経験した。ここに来て1年目の秋、「きのこ狩りに行ってきたよ」という話をよく聞き、いいな、私も行ってみたいなと興味を持つ一方で、遭難したりクマに襲われたり、毒きのこで死亡したりしたというニュースも例年後を絶たなくて、ちょっと怖い気もしていた。


「さあ採るぞ」。左から大樹さん、吉田さん、幸一郎さん
「さあ採るぞ」。左から大樹さん、吉田さん、幸一郎さん

この日初めて出会った銀ダケににっこりの幸一郎さん
この日初めて出会った銀ダケににっこりの幸一郎さん

雨に濡れた銀ダケは、みずみずしく輝いて見えた
雨に濡れた銀ダケは、みずみずしく輝いて見えた

 

 それに、グループごとに秘密の"縄張り"なんてのも存在するようで、うかつには踏み込んではいけない世界なんじゃないかという躊躇もあったのが、正直なところだった。

 それから1年、西根地区の老舗酒店で「とんつこの会」という、毎秋恒例だというきのこ狩りイベントのお誘いをいただき、これならばとエイヤと参加してみることにした。

 朝6時、凍えるような冷たい雨の降りしきる中、集合場所には、雨具を着込み、カゴを抱えた市内外の約30人が続々と集まってきた。

 この日のためにいくつもの山を下見してきたという主催で店主の澤口勝美さん(61)が「今日は、松茸ご飯よりもおいしいだしが出ることで知られる銀ダケを、八幡平の山で探しましょう」と開会宣言を兼ねて、呼びかけた。

 銀ダケの正式名称は霜降りしめじといって、灰色の傘を持ち、霜が降りる時期にたくさん採れることからその名がつけられた。上品なだしがたくさん出るので、お吸い物や芋の子汁、煮付けに最適。超高級品で、市場にもあまり出回らない幻のきのことも言われ、1キロ6000円の値もつくのだとか。

 まるで「宝探し、よーいどん」の号令がかかったとばかりに、参加者たちは一目散に、それぞれの車にグループごとに分乗し、とっておきの場所目指して散っていった。

 初めて目の当たりにする"きのこ熱"なるものに圧倒され、一人取り残され途方に暮れていたときだった。一人分座席が空いているぞと言われ、西根地区の会社員・松村大樹さん(39)が運転するジムニーに、父の幸一郎さん(69)、県菌類研究同好会できのこ採りの達人・吉田勝治さん(67)の計4人で八幡平の某所を目指すことになった。

 「これから向かうのは、秘境中の秘境ですから、覚悟してくださいね」と道案内する吉田さん。ガタンゴトン、ガタンゴン。雑談もままならないくらい揺れ、少しでも気を抜けば、沢に転落してしまいかねない藪漕ぎ状態が30分以上続いた。途中、パンクするというアクシデントも乗り越え、パリ・ダカールラリーのゴールに待っていたのは、めまいがするくらい色鮮やかな広葉樹の林だった。

 だが、きのこ狩りの達人というのは、紅葉を見上げることなくすぐさま足元を向いて突き進んでいくのだった。そのうち「おーいあったぞー」という声が、方々から聞こえ始めた。

 えー、どれどれと駆け寄ると、雨に濡れたぬるぬるとした銀ダケを大事そうに見つめる吉田さん。「一つ見つけるとその周りにたくさんあることが多い。探してごらん」。言われてみるも、落ち葉の色と同調していて、目を凝らしてもなかなか見つけられないのだった。

 先日4キロ採ったばかりという大樹さんに、見つけるコツってあるんですかと聞いてみるが「こればかりはただ、目をこらしてじーっと見ているしかない」とのこと。横から吉田さんに「彼氏を見つけるイメージで」と言われ、男性を見る目がない(らしい)私はさらに頭を抱えてしまう。

 上を向いて歩こう、ではなくて、下を向いて歩こうと繰り返し口ずさみながら、遭難しないよう、車の場所を見失わないようにぐるぐると徘徊すること1時間あまり。「あった」。思わず私は叫ぶと、そこには宝の山のような銀ダケが次から次へと転がっていたのだった。

 初めて自力で出会った銀ダケは、それが高価だろうが旨かろうが、人間の利益や実益という概念を超えて、見つけたという純粋な喜びを私に与えてくれた。そうそう、それなんだよ、きのこ採りの魅力っていうのは、と3人は口をそえてうなずいた。

 時間になり、もと来た道をまた車で引き返しながら、吉田さんはまだまだ名残惜しいようで、大樹さんに「あ、そこ車を止めて」と言っては、「あそこにはあれがあるんだ」と藪の斜面を進んでいき、戻ってきて進んでは「あ、そこにあれがあるんだ」と言って、ひょいっと採ってきたきのこをカゴの中に入れるということを繰り返した。

 30年前、たまたま仲間ときのこ狩りに行き、それが全て毒きのこだと言われたのが悔しくてたまらず、独学で県内の山を一人で何百ヶ所も訪ね歩きながら、きのこを学び、今ではきのこ百科の編纂に携わるほどのきのこの達人として知られるようになった吉田さん。

 だけど、見つけた瞬間の表情は、まるで少年だ。吉田さんがかぶっていた白いヘルメットの左端に、紅葉のミズナラが一つくっついていたのを私は知っていたけど、髪飾りみたいでかわいかったから、内緒にしておくことにした。(今川友美)


■ とんつこの会

 山菜やきのこが好きな参加者らで、春には山菜採り、秋にはきのこ狩りをおこなう。終了後は、外のバーベキュースペースで山菜、きのこ談義に花を咲かす。前身は40年前、地元の酒屋の青年や酒類メーカー同士の親睦を図るために設立された「酒類青年会」だったが、コンビニやスーパーの台頭で、地元の酒屋が相次いで閉店。2005年2月、「とんつこの会」へと改称し、一般参加者への募集を始めた。今年で10周年を迎えた。東日本大震災の際には、被災地に出向き、きのこ汁などの炊き出しも行った。

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商工観光課観光振興係
電子メール shokanka@city.hachimantai.lg.jp

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