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連載コラム(16-2) 渡り鳥あらわる

(2)渡り鳥あらわる

公文さん(左)
公文さん(左)

縄が編めるようになった筆者
縄が編めるようになった筆者(中央)

ひとやすみ
ひとやすみ
親子の共演
親子の共演
河童の足?
河童の足?

 「おばあちゃん、かっこいい!」「隅っこにはまってるかんじも超いい!」

 シャッターの連続音と、威勢のいい短パンTシャツ姿の青年の声が、作業場に響いた。視線の先には、両手を顔の前ですばやくこすり合わせながら、縄を編む一人の老婆。

 彗星のごとく現れた青年は、東京の写真家・公文健太郎さん(33)だ。来夏の写真展に向け、「棚田のような有名ではない、普段のなんでもない農村の風景」をコンセプトに、北から南を訪ね歩いている。「祭りの写真も入れたくて」、全国の祭りを片っ端からリサーチしたところ、やっとのことでこの祭りにヒットした。車中泊で挑む、2日間の真剣勝負だ。

 公文さんが、撮れた写真を見せてくれた。老婆は、何かを崇め、かしずいているかのよう。顔の皺や雰囲気、写真のなせる技があいまって、恐山のイタコみたいな呪術的な空気が醸し出されていた。

 「お前、どごがらきただ。やってみろ」。そう言われ私も、縄作りに挑戦することになった。縄は、藁人形の手や足などをくくりつける際に必要になってくる。

 すぐにできると思いきや、大間違い。

 「そうじゃなくて、こう」

 「ぢーがーうー」

 スローモーションで何度も手本を見せてもらうが、なかなかコツをつかむことができない。やけっぱちになり、手の動きだけ真似してみるが、空回りとはこのことで、ぐちゃぐちゃになった藁を床に散らかしただけだった。

 「これじゃ使いもんになんね、もうい」

 見放され、やっぱり私は何をやってもだめなんだといじけた。それを見ていた別のおばあさんは「なにごどもやってみようというおめのそのきもぢ、たいしたもんだ」と褒めてくれた。それで、どこかに置き忘れてしまった私の負けず嫌いな精神が、久しぶりに顔を出した。

 1時間ほど格闘し、やっとのことで編めるようになったときの感覚は、自転車が一人で乗れるようになった爽快感と似ていた。「あ、でぎてる!でぎてる!」。おばあさんたちが身を乗り出してのぞきこむ。

 ふーんだ、私だってやればできるんだもんねーと調子に乗り始めた結果、私は編んで編んで編み続けた。やがて、手の皮がひりひりしだした。気づけば、私の着ていた服は、雑巾で絞れるくらい汗でびしょびしょになっていた。

 「そんなに無理しなぐだっで、休み休みやればいいのさ」

 競争社会の真っ只中にいた頃は、自分がどこまで走り続け、がんばり続けなければいけないのか、わからなくなることがよくあった。半分退いてみたいまも、実はあまり変わらない。そんななかで、おばあさんの言葉は私をとても安心させた。

 一方の、男性陣はといえば。

 「どこを作ってるんですか」「わがらん。さあ、どこにすっかなあ。作りながら毎年思い出すんだ」

 「これは男と女、どちらですか」「できてみて、小さいほうを女にすっぺ」

 なんともいい加減で、ゆるゆるな会話だが、それで毎年ちゃんとできてるんだから、問題ないのだろう。

 年配の男性たちに混じって「あわび」作りの教えを請う、若い男性の姿が目を引いた。最年少の畠山長太(27)さんは4年前、都内の大学卒業後、八幡平市に戻ってきたが、人形作りに携わるのは、これが初めてだ。

 右隣に座る父の長久さん(58)は、「この部分を作れる人が事実上、いなくなってしまい、そろそろ誰かに伝えていかなければと思っていたんです」と話した。横から公文さんが「おっ、親子の共演、いいねえ」と冷やかす。

 「初めてにしては、うまいじゃない」。父はぼそっと、息子を褒めた。

 日が暮れると、調理場は三角巾姿の女性たちでひしめき合ってきた。「はい、お米でーす」。ビニール袋に入れられた米が、入り口の机の上にどんと置かれていく。集落の各家が少しずつ持ち寄ったものだ。調理場は夜遅くまで、野菜を切る音がコンコンと響き、明かりが灯った。

 倉庫はすでに誰もいなかった。まだ性別不明の2体の人形の足が、暗闇に浮かび上がっていた。「おいねえちゃんよお、今日は泊まっでぐか?」。男性たちは外で宴会を始めている。明日はいよいよ、お祭りだ。日常と非日常の境目は、ますますあいまいになっていく。(今川友美)

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