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連載コラム(16-1) 始まりはぼんやりと

(1)始まりはぼんやりと

雨は強くなるばかり
雨は強くなるばかり

神様?
神様?

これから漬けるよ
これから漬けるよ
藁のくずを取るおばあさん
藁のくずを取るおばあさん

 祭りとは「非日常」だ。だから祭りが終わると、みんなさみしくなる。それを「祭りのあと」と言う。そんなどこかで聞きかじったイメージが頭の片隅にあったからか、横間虫追い祭り(※)のはじまりは、いくぶん私を拍子抜けさせた。

 前日の18日昼過ぎから、集落の作業場で準備がおこなわれると聞き、保存会長の畠山正徳さんの(68)の家をまずは訪ねることにした。その瞬間、空っぽでがらんどうの私の身体に、特別な「ハレ」なる世界が満たされると信じて。

 ごめんください。玄関を開けて呼びかけたが、階段や目の前を、家族たちが忙しそうに通り過ぎていくだけで、畠山さんが出てくる気配はない。

 退屈な日常の波がすぐさま押し寄せてきそうになり、私はあわてて差していた傘の柄をくるくると回す。

 10分後、おっとりとした足取りで畠山さんが現れ、隣の大きな倉庫に向かった。軽トラの荷台を見ながら畠山さんは「今日は午前中、リンドウを出荷したよ」と話した。いよいよ待ちに待った祭りが始まるというのに、なんなんだろう、このいつもとかわらないかんじ。

 それから準備をおこなう作業場へ。集落のシンボルの山の名からとった「やかましらの館」のというネーミングがいい。「そろそろ、みんな集まってるかな」といいながら畠山さんは扉に手をかけた。

 扉は開かず、まだ誰もいないのだということが分かる。ちょっと待ってて、畠山さんは鍵を取りに戻った。私はまた傘をくるくる。雨足はますます強くなってきた。

 なぜかブルドーザーを運転して帰ってきた畠山さんとともに、作業場に腰を下ろした。あ、誰か来た。ガラガラと戸の開く音がする。また1人増え、そしてまたガラガラ。

 けだるく私は「雨、たくさん降ってきましたねえ」とつぶやく。「やっと久しぶりの雨。夜中まで降ってくれれば用水路に水が溜まる」と向かいで煙草をふかしている男性が言うと、「今年は雨が少なくて川もカラカラ、イワナが干からびちまって」とまた別の男性。

 日常の、さらにまた延長線上へ進んでいくような会話が、むんとした湿り気のなかで浮かんでは消えていく。もしかしたら、この人たちにとって、天気だろうが祭りだろうが関係なくて、それらはすべて普段の生活と、ものすごい近いところにあるのではないかしらん。

 ぐらりと時空が歪むかんじをおぼえた午後2時少し前、藁や、キャベツ、人参、ジュースの入った箱を持った人たちが、次々に集まってきた。

 「おーい、ちょっと集まってけろ」。畠山さんが呼びかけると、壁に無造作に立てかけられた一束の藁の周りを、集落の人たちが囲み、拝んだ。この藁でこれから、200年以上続く伝統行事のシンボルである、虫送りの人形が作られる。藁も最近は、コンバインでの収穫が主流になり、手に入りにくくなっているとか。

 人々はいつのまにか三々五々に散らばって、すでに藁は誰かの手により持ち去られていて、あれは儀式だったのか、なんだったのか。わからないまま、畠山さんが一人黙って、塩をぱっぱとまいている。

 これといった開始を示し合わせることもなく、おばあさんたちは藁の束を膝にのせ、くずを取り始め、男性たちは本番終了後の出しものの舞台の骨組みを作り始めていた。

 調理場では畠山栄子さん(61)が、大きなバケツに大量の朝採れキュウリを投入し、辛子漬け作りにいそしんでいた。味見したけど、おいしい。明日は、離れ離れに暮らす子どもたちが帰ってくる。「夏はここで盆踊りをするけど、踊ったらそれで終わりだし、年末年始もばらばら。でもこの祭りは、特別なの」(今川友美)


 

横間集落(安代地区)で7月19日に行われた伝統行事「横間虫追い祭り」のようすを、5回にわたってお伝えします。

(※横間虫追い祭り)「虫追い」とは夏、大量に発生し農作物に害を及ぼす虫を、鬼の角を持つ男女2対の藁人形に付けて村境に送り、川下に流す儀式。天明の大飢饉(1783年)の際、訪れた修験者が「五穀豊穣」「悪霊退散」を唱え、太鼓を打ち鳴らして練り歩いたのが始まりとされる。市無形民俗文化財指定。

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